世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの「青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。
(前回の記事「ノルウェーかっこいい!」はこちら)
動画版:「マルクスのお墓に行きました。そしてデンマーク」
中島:
歴史を紐解けば世界が見える。大人の世界史チャンネル、中島浩二です。そして河合塾のカリスマ講師、世界史の青木裕司先生です。よろしくお願いします。
前回ノルウェーをやったので、ノルウェーをやったんだったらデンマークのことについても話をしておかないと、という先生の話だったんですが、若干休憩を入れたときに、先生が「いやー、海外旅行に行ったら私は必ず有名な人のお墓参りから始めるんです」って。「なんですと?」と。デンマークの前にそんな話、今までお一方、誰のお墓参りに行ったんですか?
青木:
その街の有名人、必ず誰か行ってますよ、調べて。たとえばロンドンに行ったらハイゲートセメタリーという北部のほうに墓地があって、カールマルクス、資本論を書いた、彼のお墓があるんですよ。
そこに行って、「ここに眠ってるんだな」って。向こうは土葬じゃないですか。だから地下50センチか1メートルぐらいに、ミイラだろうけど、いるよねって。それを確認する。僕、世界史を教えてますけどね、世界史に登場する人物って肉眼で見たことってないんですよ。場を共有したいと言ったらおかしいけど。
中島:
今私が立っているこのちょっと先の地下1メートルぐらい、2メートルぐらいに眠ってるんだよねということを考えたら感慨深いものが。
青木:
ちょっと感動しますね。いろんな街に行って、墓地って8時ぐらいに開くんですよね。朝ごはんを食べたらタクシーをチャーターしてビューって行くんですよ、「ここだ」って。
中島:
「マルクスここだ」って興奮しちゃ。
不思議な話ですけど、アメリカのテレビドラマでゾンビがすごくワーッてもてはやされるのは、向こうは基本的には土葬なので、もしかしたらこの眠っている人がワーッと出てくるかもしれないというところでの、あのアメリカのテレビドラマのヒットなんですよね。
だから日本で、俺とかはあんまりゾンビ系のテレビドラマって入れないんですよね。
青木:
僕もそうです。
中島:
日本は火葬なので、骨になっちゃってるから。
青木:
白い骨になっちゃいますからね。蘇るという感覚があまりないですもんね。
中島:
ないんですよね。という話からデンマークです。
青木:
前回はノルウェーの話をしたので、今度はデンマークですね。
中島:
デンマークといったら僕のイメージではアンデルセンぐらいのものです。
青木:
そうですね、人魚姫の像とかありますよね。
中島:
あれも日本のアンデルセンのあの久留島武彦さんという人が、玖珠の人ですけどね、あの人が子供たちに童話を聞かせて、ボーイスカウトとかも日本に取り入れた人ですけど、あの人がデンマークに行ったときに全然アンデルセンがきちんと整備されていないというので、それで「そんなんじゃダメだ」ということで運動して、今はデンマークでもアンデルセンがきちんとね。
青木:
そうなんですか。その話、いただいて良いですか?
中島:
デンマークってどういう歴史のところなんですか?
青木:
まずこのあたりでは結構強い国だったんですよ。なぜかというと場所、見てわかるでしょ。
中島:
入り江の、バルト海の。
青木:
バルト海があって、西側に北海ですね。このあたりって寒いので、農業があまりパッとしないんですよ。だからどうしても貿易海運でみんな飯を食う。ご覧のように真ん中でしょ、一番良いポジションなんですよね。
中島:
地の利ということですよね。
青木:
そう、地の利。地中海でいえばシチリア島みたいな、真ん中。
中島:
拠点になるんですよね、交差点という言い方でも良いかもしれませんけど、物流の真ん中にあるということは物が行き交う、つまりお金が落ちる。
青木:
そうそう。中世の時代から非常に貿易で頑張ってたんですね。ところがドイツの連中、ドイツの都市が貿易に乗り出してきて、有名な都市の同盟にハンザ同盟とあって、この連中と喧嘩してデンマークは負けちゃうんですね。
負けたのでどうしたかというと、ドイツの都市ハンザ同盟に対抗するためにバルト海の北側にあるノルウェーとスウェーデンに同盟を要求するわけですよ。
中島:
一緒にやらないかと。
青木:
同盟という名前なんだけども、実際には力が強いデンマークがスウェーデンやノルウェーを支配するという。16世紀の初頭までスウェーデンは実際上、デンマークの支配下だったんです。ノルウェーはそれ以降もずっとデンマークの支配下だったんです。
中島:
でも国としては全然違う国として成り立ってるわけですよね。
青木:
一応成り立ってますね。でも民族も言語もほとんど一緒だったですね。
中島:
そうなんですね。そこのところが日本人はちょっと理解しにくいところはあるんですけど、結局民族といったら、先生がおっしゃるように言語と宗教。
青木:
そうですね、基本はね。
中島:
文化が同じだということで。じゃあもうデンマーク、スウェーデン、ノルウェーと言ってるけれども、地域は違えども言葉も同じだし。
青木:
まあまあ一緒ですね。
中島:
だから方言に近いようなものですよね。
青木:
そんな感じ。
中島:
だからポルトガルの人がスペイン語はわかるけれども、スペインの人はポルトガル語がわからないみたいな感じで言語が近いし。
青木:
お金持ちの国だった。ところが16世紀の後半ぐらいからオランダというライバルがやってくるんですよ。このあたりの貿易の覇権を握っちゃうんですね。なんだかんだでデンマークって力が弱くなっちゃう。19世紀の後半にデンマークの南にあったプロイセンという国、のちのドイツ帝国の中心になる国。大日本帝国にとっての薩摩と長州みたいな国があるんですよね、プロイセンって。ドイツ統一の拠点になったプロイセンという国と戦争をやって負けちゃうんですよね。負けて領土の南のほうの豊かなところを全部失っちゃうんです。その苦境に対してデンマークがなにをしたかというと、普通喧嘩に負けて領土を奪われたら、どこかとまた戦争をして領土を奪い返すとか思うじゃないですか。それをしなかったんです。どうしたかというと、国といっても非常に小さい領土で、広さが4万平方キロメートル、九州と同じぐらいです。その中に荒れ果てた地域がたくさんあると。なんで荒れ果てたかというと、木を切りすぎちゃって砂漠化しているところが結構あったんです。そこをもういっぺん緑の大地に変えようという運動がここから始まっていくんですね。エンリコ・ダルガスという男の人が中心になって木を植えていく運動をずっとやっていくわけ。
その彼の功績を後付けた有名な演説がありまして、内村鑑三という日本の有名なキリスト教徒。あの人が1910年に公演をやるんですね。『デンマルク国の話』というのをやるんですよ。1910年と言いますと日露戦争が終わって5年。日本が一等国になった、喧嘩が強い国になったと言って盛り上がっているときにこの演説をするんですね。冒頭でなんと言っているかというと、「戦争に負けても繁栄した国がある。一方で戦争に勝っても滅んでいく国がある」と。これは暗に日本のことなんですけどね。そういうことを彼はちょっと心配しながら、日本の行く末を心配しながら戦争に負けでも頑張った国がありますよというのでデンマークの話をするんです。「内に失いしものを外に求めず、内で充実させていく」と。
国内の充実でもって対応していく。実際に森林の面積がガーって広がっていくんです。荒れ果てた時代に650平方キロメートルしかなかったのが、ダルガスを先頭としたデンマーク国民の頑張りで3倍に増えていくんです。現在では5000平方キロメートルだったかな。
中島:
森って再生できるんですね。
青木:
できるんですね。ノルウェーからモミの木を導入して、それをずっと植えていくんです。結果どうなったかというと、デンマークの気候も変わっていくんですね。木がないと寒すぎたり暑すぎたりすると。その気候がずいぶん緩やかになっていくんですよ。農業に、土地の保水能力が高まるので農業がやれるようになる。農業、酪農、これで頑張るんです。今やデンマークはどういう国になったかというと、食料自給率200%。
中島:
200%ですか。
青木:
農業だけじゃなくて酪農も頑張って、大きな豚を品種改良で作ったり、ランドレースと言うんですけどね。背骨の骨の数が普通の豚より2個か3個多いんです。それだけ肉がたくさん取れる。そういう豚をたくさん作った。
農業も酪農も儲かるんだというモデルを世界的に示した国のひとつですね。ちなみにこれを見た日本の農民の皆さんが、愛知県三河安城というところがあるじゃないですか。あそこにデンマーク式、デンマークスタイルの酪農を持ってくるんです。三河安城ってなんと言われたかというと、僕らの時代、僕らの頃の社会科の教科書に日本のデンマークと書いてあったんです。
中島:
先生の時代の社会の教科書にですか。
青木:
「日本のデンマークと呼ばれる三河安城は」と書いてある。
中島:
それを考えたら、戦争に負けるとか戦争に勝つということよりも、自分たちの国がどうあるべきかということを考えて、ちょっと時間はかかるかもしれないけれども、よく中長期的な目標、中長期的な目標って立ててもなかなか難しいよという人、多いんですけど、今の時代ってスピードの時代ですから。でもそれってすごく大切なことなんだよというのをデンマークは。
青木:
やったんです。特に木を植えるわけでしょ。明日明後日で結果が出ないじゃないですか。
中島:
そうなんですよね、何十年後ですよ。
青木:
それに耐えていったデンマークの人たちの粘り強さというか、そこは僕すごく感動するんですね。前回お話したノルウェーと同じように、この国も第二次世界大戦中、ナチスドイツから侵略を受けるんです。全土が占領されるんです。その占領地でナチスドイツがなにを始めるかというと、ユダヤ人狩りを始めるんです。ところがデンマーク国民はどうしたか、国民みんなが立ち上がって、逮捕されたらアウシュビッツに連れていかれるだろうユダヤ人を、約国外に8000人ぐらいいたんですけど、そのほとんどをスウェーデンに逃がしたんです、みんなが協力して。これはいろんな本になっていまして、これはエミー・ワーナーという人が書いた『ユダヤ人を救え』という、実際にデンマークの人たちがどれだけ頑張ったか。
誰からも命令されたわけじゃなく、いろんなネットワークを作ってユダヤ人の人たちをかくまいながら亡命させていくわけですよね。結局デンマークに住んでいたユダヤ人の90%以上が命を永らえることができた。前回のノルウェーと同じでかっこいいんですよ。
ちなみに世界平和度指数ランキングというのがあるのをご存知ですか?
中島:
たまにランキングで出てますよね。
青木:
イギリスの新聞のエコノミストというのがあって、あそこが中心になって、いろんな学者さんを引きずり込んで世界平和度ランキングを作っているんです。戦争しているかしていないか、いろいろあるんですね。
中島:
数値化する項目がいっぱいあるんですよね。
青木:
いくつかあって、隣の国と仲が良いかとかね。その世界平和度ランキングでデンマークってだいたいベスト5の中に入っています。ちなみに言うと、海の向こうノルウェー、前回褒めましたが、あとスウェーデン、平和のイメージがありますよね。これがだいたい15位から20位ぐらいで、もうひとつパッとしないんです。なんでか。
中島:
スウェーデンとノルウェーがなぜ。
青木:
平和のために頑張ってるでしょ、ノルウェーとかね。なのにランキングを見ると15番目とか20番目で。
中島:
なんでですか?
青木:
武器を輸出してるんです。スイスもそうですね。永世中立と言ってるんだけども、一方では他国に対して武器を輸出しているんです。そのへんがちょっと評価を下げている理由なんです。じゃあ日本はというと、5年前まではだいたい第5位ぐらい。これは大国の中では稀有な例ですね。めちゃくちゃ珍しい。
中島:
経済的にそれだけ潤っていて。
青木:
なおかつ平和な国。ところが2015年に安保法制が通りましたよね。アメリカとの軍事的一体化が進んでいくということが悪いほうに評価されて、それでも8位から9位。やっぱりこの国はなかなか大したものですよ。
中島:
日本もきちんとやれている部分はあると。
青木:
そうですね。デンマークの話に戻りますけど、国民がみんなで頑張ってユダヤ人を助けたというので、第二次世界大戦後ですね、イスラエルからデンマークという国民に対して「あなたたちは正義の民だ」と認定されるんですね。日本にも杉原千畝さんって。
中島:
杉原千畝さん、日本の『六千人の命のビザ』
青木:
ユダヤ人が海外に安心して亡命できるように。
中島:
ちょっと待ってください、奥様が書いたんですか。
青木:
そうです。ある意味当時のデンマークの国民って、全員が杉原千畝さんみたいな人だった。
なかなか世界史の授業ではここまで掘り下げられないので、今日はちょっと気分が良いですね。
中島:
ということで今回はデンマークを見てきました。皆さんチャンネル登録よろしくお願いします。ちょうど15分でした。
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