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執筆者の写真順大 古川

映画でみる第二次世界大戦2【青木裕司と中島浩二の世界史ch:0024】



世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。

(前回の記事「映画でみる第二次世界大戦」はこちら


中島:

歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界史チャンネル中島浩二です。そして河合塾のカリスマ講師、世界史の青木先生です。よろしくお願いします。

 

青木:

お願いします。

 

中島:

新春特別企画ということで先生の書斎からお届けしているんですけれども、特別企画ですから、軽く映画で歴史を見てみよう。「史上最大の作戦」これもノルマンディー上陸作戦ですよね、D-day。


青木:

今から50年以上前にできた、これは白黒の映画なんですけど、あえて白黒で撮ったんです。

 

中島:

そうですか、僕、見てないんですよ。

 

青木:

カラーで撮ると戦争絵巻みたいになっちゃう。記録性を重視したいというのであえてモノクロで撮ったんですよね。

 

中島:

ということはかなり歴史的資料みたいな映画ですか?

 

青木:

基本そうですね。あんまりいろんなものを誇張せずに、原作がコーネリアス・ライアンという人の本なんですけど、それを元に、それもドキュメンタリーなんですよ。それを元に上陸作戦が展開されたときの連合軍とドイツ軍の動きを。普通、戦争映画といったらナチスドイツのほうが悪者じゃないですか。そういう描き方をしていないんです。起こったことを客観的に本当にドキュメンタリータッチで描いている。だから画面が力強いんですよ、ものすごく。


中島:

知りませんでした。何年ぐらいに公開になってるんですか?

 

青木:

1961年ぐらいだったかな。

 

中島:

僕が生まれる前なんですね。言っても第二次世界大戦が終わってからまだ15、6年ぐらいしか経ってない。

 

青木:

まだ記憶も生々しい頃ですよ。

 

中島:

そうですよね。しかも撮影が行われたとか、資料が書かれたというのはもっと前でしょうから。10年ぐらい時が経て、そういう本が出て、それで描いたという。

 

青木:

そうですね。


中島:

DVDとかでも手に入りますか?

 

青木:

もちろん、持ってきました。これは今はBlu-rayで出ていて、画面はものすごいきれいになってますね。

 

中島:

やっぱりノルマンディー上陸作戦で、きちんと連合軍が上陸したことが最終的なナチスドイツのなかなか難しいところになっちゃいますよね。

 

青木:

それまでナチスドイツって東側にいるソビエト連邦と戦争を始めて、基本的には陸上の戦いってソ連とドイツがやっていたんです。ソ連の独裁者だったスターリンがイギリスやアメリカに対して「あんたらも攻めてくれ」と再三要請するわけです。それに応える形で1944年の6月6日、上陸作戦が展開される。

ドーバー海峡を渡るんですけども、めちゃくちゃ海が荒れるんです。ほとんど一年中荒れっぱなしらしいんです。どうしたかというと、当時世界一と言われたイギリスの気象予報、これが活用されるんです。6月6日の12時間だけは晴れの、凪の波がないときがあって、そのときにピンポイントで行くんです。そういうところも出てきますよ。作戦会議のところで気象予報官とかが出てきて「どうだ?」って。「この12時間は大丈夫です」というシーンがあるんです。

 

中島:

しかもここを落としたあとのたかだか24時間ぐらいでブワーッと街みたいなのをサッと作っちゃうんですよね。

 

青木:

そうそう、すごいですよ。

 

中島:

そこから拠点にワーッと。このナチスドイツの話というのは、先生も資料があそこにいっぱりありますけど、どうしても悪者対正義みたいなことで語ってしまうとわからなくなっちゃうところがたくさんありますよね。

 

青木:

そういう意味ではこの映画は勇気を持って作られた映画というふうに言って良いですね。ドイツを悪者にしなかった。クルト・ユルゲンスというドイツの良い役者がいるんですよ。その人が将軍の役で出てくるんです。これがまた良い味を出してるんです。

あと印象的なのが、上陸作戦が展開される直前にドイツ軍がいそうなところを連合軍が艦砲射撃、軍艦の大砲で撃つのね。

 

中島:

最初に上陸する前に打つんですよね。


青木:

その中にフランスの軍艦もいるわけです。そのフランスの海軍の将軍が、彼からすれば自分の祖国を撃つわけじゃないですか。そこで胸が締めつけられるような演説をするんです。「これから祖国を砲撃する。フランス万歳」って砲撃が始まっていくんです。やっぱりなんべん見てもグッときますね。

 

中島:

フランスはフランスで大変なことに、ナチスが入って大変なことになっている。でもなんでナチスということになったかというところも見ていかないと歴史をやっている意味がないですよね。

 

青木:

ヒトラーって基本的に暴力的に政権を維持した人間なんだけども、暴力によって革命をやって権力を握ったわけじゃないですか。彼は選挙で多数を占めて、国民の支持のもとに政権を継いだわけなので。

 

中島:

ゲーリングとかいろんな人たちがまわりを固めて、それで。地方の小さい政党にしか過ぎなかったんですよね。


青木:

彼自身、党員番号第7番です。何十人の小さなサークルだった。そこの中でヒトラーがたぐいまれなる演説の能力でみんなを集め、組織を広げていくわけです。財界からも支援されたりするようになって。そのへんの彼の、ナチスとヒトラーの台頭の歴史というのは、はっきり言っていまだに歴史学の題材なんです。なんで彼が力を持ったから、なんでそれを阻止することができなかったかについてはまだ歴史学でも結論が出てないんです。僕もたくさん読んだけども、1つわかるじゃないですか。3つぐらい疑問が出てくるんです。

 

中島:

1つわかれば3つ、1つわかれば3つということになるから、どんどん。

 

青木:

謎が深まっていくんですよね。

 

中島:

ということなんですよね。でも当時のドイツはかなり第一次世界大戦の戦後補償というのも大変で、そこに世界大恐慌が加わって、その大変さというのはドイツの人たちが、映像とかを見たら大変な状況になってますよね。

 

青木:

第一次世界大戦のあとに高額な賠償金を要求されて、結局最終的にはヒトラーがある程度踏み倒していくんだけど、第一次世界大戦の傷が癒える前に大恐慌の波に飲まれてしまってまだ大混乱。それでパニックに陥った国民をうまくヒトラーが支持基盤にしていくんですよね。

 

中島:

ということなんですよね。ナチスという、ヒトラーという大変な人間がいますけれども、ゲッペルスとかゲーリングとかヘスとか、いろんな人たちの大変さというのもあるでしょうね。


青木:

取り巻きもすごいですよね。一筋縄ではいかん連中ばっかりです。

 

中島:

そうだろうなというふうに。この話はまたきちんと紐解いていかないとなかなか難しい。この「ニュルンベルク裁判」、僕、これは見たことがないんです。


青木:

これは戦争が終わったあとにナチスの戦争犯罪人たち、特にユダヤ人虐殺に関わったきっかけを作ったようなドイツの法曹関係者、法律の関係者、裁判所の。それが裁判にかけられるという話なんです。

これは中学校の3年生のときに日曜洋画劇場、淀川先生が解説をやってらっしゃった。あれで見て衝撃を受けたんです。中に裁判のシーンが出てきて、裁判の中で実際にナチスがどんなことをやったかというのを、実写のフィルムを出すシーンがあるんですよ。それで解放された強制収容所のシーンが「これ実写のフィルムです」って出てくるんです。遺体の処理をするためにイギリス軍のブルドーザーがユダヤ人のご遺体を押していって、穴の中に放り込むシーンがあるんです。これが実写なんです。それを観て「うわー」と思ったんです。

これは僕が今に至って歴史を勉強しているひとつの原因というか。

 

中島:

ポイントだったということですよね。なんでこんなことになったのかというのを自分でいろいろ調べて。

 

青木:

それまで僕、結構ナチスのことに興味があって、小学生時代から勉強していたんです、なんだかんだ読んで。たとえば。

 

中島:

書斎だから自由ですよ。すごい自由です。

 

青木:

これは小学生のときに読みふけった本です。


中島:

「20世紀の記録、少年少女」しかもここ。結局こういうのを読みながらどうしてこんなことになっちゃったんだろうなと。

 

青木:

ここにいろいろと書いてるんですけど、だけどそれが結局読んだだけじゃわからなかったんです。「ナチスってこんなことをやったんだ」と、それに思いが至らなかったというので、それがある意味ショックだったんですけどね。やっぱり文字を読むだけじゃいけないなってちょっと思ったんですよね。もっと勉強しなくちゃいけないなと思ったんですよね。

 

中島:

強制収容所というと「ライフ・イズ・ビューティフル」という映画、ご覧になりました?


青木:

観ました。

 

中島:

映画ってかくあるべきなんじゃないかなって思うんですよ。本当に強制収容の大変なことを描いている映画なんですね。イタリアが舞台なんですけど、イタリアのユダヤ人の男がだんだん戦争が迫ってくる中で恋に落ちて、彼女がガーデンの中へ入っていって、ビニールハウスのガーデンの中に入っていって、彼が入っていって、その恋人が入っていったあとに子どもが出てくるんですよね。ここで時間がパッと、ああいうおしゃれな感じの描き方。

 

青木:

大変な時代の映画なんだけどもおしゃれで、笑わせてくれるシーンも結構あるんですよね。

 

中島:

そうなんですよ。子どもに実は強制収容所ということを言わずに「今僕たちはみんなでゲームしてるんだ。だから君もそのゲームに勝たなきゃいけないよ。君の大好きな戦車が最終的には迎えに来てくれるから、ゲームに勝てば」と言って、最後の最後のあのシーンはもう。

 

青木:

たまらないですね。

 

中島:

たまらないです。強さってなんなんだということも考えさせられるし、映画ってかくあるべきだなというふうに思いました。

 

青木:

強さとおっしゃった。僕もあの映画を見て、強さって猛々しいものの中にあるんじゃなくて、やさしい、そういうものの中に本当の強さというのがあるんだと。

 

中島:

そうだと思うし、しなやかさとか、なんていうか。あれを見たときに、本当に思い出しただけでも「うー」ってくるぐらいの映画だなって、「ライフ・イズ・ビューティフル」って、今日ここが僕の書斎だったらDVDをガーンと出してますけれども。新春特別バージョンで映画の話が熱くなっています。








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