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【先史時代③】神官誕生【青木裕司と中島浩二の世界史ch:0039】


世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。


中島:

歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界史チャンネル中島浩二です。そして河合塾のカリスマ講師、世界史の青木先生です。よろしくお願いします。


青木:

お願いします。


中島:

原始時代、シリーズ3回目。旧人と言われる中で我々ホモサピエンスが生き残って、農業ということに目覚めるというか、気づくんでしょうね。


青木:

そうですね。時代的には今からだいたい1万年前。どこが最初に意識して農業を始めたかについてはいろいろ説があるんだけど、一応世界史の教科書では今のイラク。


中島:

メソポタミア文明。


青木:

あのあたりの肥沃な三日月地帯と言われる地域で、そこで麦の栽培から始まっていきます。ただ1万年前ぐらいから農業が始まるじゃないですか。それから農業が順調に発展していくかって、必ずしもそうじゃないんです。なぜかというと、それまで人間って狩猟、採集じゃないですか。ハンティングをやったり、木の実を集めてきたり。いつもそのために移動していたわけですね。それに対して農業というのは土地を耕すものだから定住性が高まる。


中島:

そこに住みつくということですよね。


青木:

はい。あと人間がこれまでバラバラだったのが密になるわけです。そして家畜も密になるじゃないですか。これも推測の域を出ないんだけども、たぶん何回も何回も感染症が流行って。


中島:

いわゆるウイルスとの戦いということですよね、今と同じ。


青木:

一緒なんですよ。密な状況、それによってあっという間に感染症が広がって滅亡していった文明ってたくさんあるんじゃないかと言われているんですよ。これに対して狩猟、採集をやっている人たちはだいたい小集団なんです。それで移動するから、ウイルスとか細菌を置き去りにしてどこかに行っちゃうんです。


中島:

そういう話はありますよね。


青木:

必ずしも農業をやっている社会のほうがすばらしく幸せで、狩猟採集のほうが厳しい世界ということでは必ずしもないみたいです。


中島:

本当に一長一短というか。


青木:

一長一短、いろいろあるんですよね。


中島:

不思議なものですよね。農業が始まることによって、実は組織とか上下、だから力を持っている人と持たざる人というのが実はここらへんから出てくるんですよね。


青木:

農業が始まったことによって人間生活が革命的に変わっちゃうんですよね。一番大きいのは穀物という、たとえばコメだったり麦だったり。非常に保存性が高くて、なおかつ栄養価が高い。そういうものを人類が作るようになったので、食料生産、食料を獲得するために四六時中歩き回る、これは必要なくなるわけです。するとどうなるかというと、人類の生活に初めて暇が出てくるんです。


中島:

余暇が出てくる。


青木:

暇なぶんだけどうするかというと、たとえばこれまで使っていた設計。もうちょっと磨きをかけてみようかねって。これまでの設計だって十分に使えるのに、それに磨きをかけることによって、難しい言葉でいうと二次加工を施すことによってより切れるような石器、いわゆる磨製石器が出てくるわけ。ここからを新石器時代と言うんです。あと織物。


中島:

着るものですか。


青木:

これまでってたとえば動物の毛皮を着たり、そのへんの木の皮をはぐってきて体に巻き付けたり。どっちにしても通気性が悪かったんです。簡単に着ることができるけども。


中島:

脱ぎ着しかできないですもんね。


青木:

ところが我々が着ているこういうものって糸を織り込んでいるでしょ、めちゃくちゃ時間がかかるんですよね。だけど通気性が良いんですよ。だから肌が適当に乾燥するので、雑菌があまり繁殖しないんです。


中島:

なるほど。


青木:

そしてもうひとつは、定住性が高まるじゃないですか。火を焚いたあとの土が硬くなるものがあることに気づき始める。火を与える、要するに「熱を与えると硬くなる土があるよね、コンコン、これなにかに使えねないか」と土器が作られ始める。器ができるわけ。土器ができるとまた人類の料理の歴史、2回目の革命、なにかというと、煮るという作業が始まるわけです。


中島:

焼くんじゃなくて土器の中に入れて、それを下から火で。


青木:

そうそう。焼くとおこげができるじゃないですか。おこげの中には一部発癌性物質があるという話もあるじゃないですか。それに対して煮るという作業は文字通り水と一緒に沸騰させますよね。そうするとその食料が持っている栄養素を全部スープの形で飲み干すこともできるわけです。こうしてより効率よく我々は


中島:

栄養というものを摂取できるようになったと


青木:

だから農業を始めたことって革命ですね。本当、人類の歴史の中で一番革命じゃないかと思います。ただ労働はきついんですよね。わりと単純作業というか、ルーティンをこなしていかないかん。それは狩猟民族みたいに山の中に入っていって、駆け回って、そういう変化に満ちた生活は必ずしもないんです。さっきも言ったけど、どっちが人類の幸せにとってプラスだったのかって、それはわからないです。どっちがすごかったのかということはわからない。



中島:

そこで富める者とそうでない者という。



青木:

これはわりと教科書、詳しく説明しています。コメとか麦みたいに保存性の高い生産物、食料ができる。そうすると、農業生産が上がってくると、これも人類の中で初めて食いきれない余りというのが出てくる。難しい言葉で余剰生産物。余りが出てくるとなにが起こるかというと、必ずしもその地域に住んでいる人たち、その村に住んでいる人たち100人が100人とも農業をやらなくても良いわけ。「お前、力弱いよな。でも手先は起用だから畑に出ないで道具だけ作ってくれ」と。「お前、喧嘩強いよな。お前は必ずしも畑に行かなくて良いから、隣の村の連中からこの村を守ってくれないか」こうして自分の生活の中に分業、社会の中に分業が生まれてくる。


中島:

今先生が「お前よ」と言ってる人はその集落、組織の中で一番力を持っている人ですよね。


青木:

はい。どういう力を持っているかというと、神と交信ができる。あるいは自然と交信ができる。教科書に登場する言葉でいうと神官。私が尊敬してやまないマックスヴェーバー先生がおっしゃるには、人類の中で最初にできた権威、最初に登場した権威は宗教的権威であると。



中島:

祭祀の人ですよね。


青木:

はい、祭祀階級ですね。そういった人たちが最初に力を持って、あれこれ人に指図する。さらには「お前、力が強いよね」と言われた彼らは軍人になるわけです。その村だって年がら年中、他の村と喧嘩してるわけじゃないわけです。戦争が起きるのは収穫の時期。だもんだから軍人たち一部が、いつもは地平線の向こうの別の村を見てるんだけど、攻めてこないよねと。その武器を持ってうしろをくるっと振り向いて「言う通りにしろよ」と。自分たちの村の連中に「言う通りにしろよ、もっと食わせろよ」と。こうして神官勢力と軍人、こういった人たちが社会の上に立つようになる。

こうして階級、そしてその階級を基盤にした国家というまとまり、上下関係というのが生まれる。


中島:

すごい話ですよね。本当に農業からはものすごく早いですよね。たかだか1万年ぐらいのものですから。


青木:

国家と言われる社会集団が生まれてくるのがだいたい今から5000年前ぐらいかな。農業が始まって5000年間ぐらいは集落が生まれても前回言った感染症が蔓延して滅亡するという。繰り返していくんですよ、ずっと。その中で人口もだんだん増えていって、感染症にそれなりに対応できるような、たとえば水回りを工夫するとか、川から水を取り入れて、それをちゃんときれいにして流すとか、そういったシステムなんかも生まれていく。インダス文明なんかはそうです。インダス文明は水回りが完璧だそうです。


中島:

本当にすごい。実は我々何千年前とかいったら、ずいぶんと遅れた人たちというふうな勘違いしてる人がいっぱいいますけど、もうほぼ5000年ぐらいはあんまり変わらないですよね。


青木:

基本的には変わらないですよ。人間が密に生活して、食べ物を奪い合うというね。


中島:

だから本当、それを見たらこの5000年、こんな感じだけど、今後どうしていかなきゃいけないかというヒントにもなるように大人の世界史チャンネルをやっています。

最後にひとつだけ良いですか?コメという立場から見たら、実はコメという作物はあんまり強くないらしいんですよね。


青木:

だいたいそうですね。


中島:

食べたらすごくおいしくて、脳にものすごく「おいしいよ」という記憶を植え付けるらしいんですよ。それでコメというのは自分たちが地球ではそんなにたくさんのところで生活できないのを、人間というのを使ってどんどん畑で自分たちの勢力を伸ばしていったという話もあるんですよね。コメを、日本の祭祀なんてほとんどコメに対する祭祀ですもんね。


青木:

おっしゃる通りなんです。コメは人類の食い物の中で麦と並んでツートップ。でもコメのほうがやっぱり。


中島:

日本人だからやっぱりおいしく感じますよね。だからコメは人間を使って自分たちの生活をどんどん良くしたんじゃないかという話もあります。来週からは違う話をしますか。


青木:

パレスチナ問題行きましょうか。


中島:

わかりました。








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