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【イラン・イラク情勢】2カ国の違いとイランの危機を救った日本人【青木裕司と中島浩二の世界史ch:0045】

更新日:3月23日



世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。


中島:

歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界史チャンネル中島浩二です。そして河合塾のカリスマ講師、世界史の青木先生です。よろしくお願いします。


青木:

お願いします。


中島:

イランとイラク、名前が似てるので、ちょっとごっちゃになる人が多いと思うんですけど、わりとイラクというのは国土はちっちゃいです。イランというのは国土はでかいです。


青木:

高原地帯が中心なんですけどね。


中島:

そうですね、それからペルシャ系の人たちというのがイランの人たち。アラブ系の人たちというのがイラクの人たち。


青木:

僕らは中近東というとアラブ人だ、石油が出ると思うかもしれないけれども、実はイランというのは民族系統が違うんです。アラブ人とは民族系統が違っていて、むしろインドに近いんです。言語的にはインドヨーロッパ語族と言いまして、よく見ると顔つきもちょっと違うんです。


中島:

違いますよね。だからこのあたり、本当に世界中で勘違いしている人が多くて、僕が観た映画はなんていうのも、イランから移民したアメリカの人があの9・11以降アメリカの人たちから虐げられて「俺はペルシャ人なのに」という、全然違うんですよね。


青木:

欧米人が我々アジア人を見て、中国人と韓国人を我々が区別できるかというとなかなか難しいと。


中島:

そのあたりということですけど、実際に着ている服なんていうのもちょっと違いますよね。


青木:

そうですね。話は100年ぐらい前にまたなっちゃうんですけども、中近東、今は産油国が多いんですが、最初に石油が出たのは実はイランだったんです。100年前に、しかも誰が掘り出したかというとイギリスなんです。今のブリティッシュペトロリアムという大きな石油会社がありますけど、あの前身のアングロイラニアン石油というのが100年ちょっと前ですけども、イランで石油を掘り出し始めるわけ。第一次世界大戦が終わったあとにイランの西隣にあるイラクが実質上イギリスの支配下に入るわけ。そこにおいてもイギリスは油田の開発を始めていくわけです。ついでに言うと実はイスラム教にも大きな派閥があって、スンナ派とシーア派、どう違うか説明すると長くなるので、ちょっと割愛しますけども、歴史的にずっと対立があったんです。イランというのはイスラム教の中でもシーア派がほとんど多数。イラクはどうかというと、実権を握ってきた人たちというのはスンナ派なんです。ところが国の南の地域にはシーア派が多くて、実は住民の6割ぐらいがシーア派なんです。

イギリスがなんでそういうふうに国境線を引いてしまったかっていろいろあるんだけども、基本的には自分の言いなりになるスンナ派のリーダーをイラクのリーダーにして、そいつを手懐けて石油の利権をしっかり握っておきたいという感じだったんですね。


中島:

ここで本当に石油が出たことによってこの中東の大変なことというのが始まるというところはあるんですよね。


青木:

パレスチナ問題のときも言いましたけど、イギリス悪いですね。第二次世界大戦が終わったあとなんですけども、イランで大きな動きが起こる。それはなにかというと、1951年に石油の国有化というのをイラン政府が断行するわけ。要するにさっきも言ったようにイランの石油というのはイギリスが掘り出してるでしょ。基本的に石油の利益、ほとんどがアングロイラニアン石油というイギリス系の石油会社の懐に入っちゃうわけですよ。


中島:

これは自分のところの国土からいっぱい石油が出て、それで商売して、掘り出したとはいえ、我慢ならんというところはありますよね。


青木:

なのに実際に石油の利益がイラン国民を潤さないというので、モサデクという名前の首相が「これからはイランの石油はイラン国民のものである」と、アングロイラニアン石油から利権を接収して、世界に向かって直送しますと。「アングロイラニアン石油を介さずに石油の直送をいたしますから買いに来て」と言った。ところがどこの国も石油を買いに行かなかった。なぜかというと、今もそうだけども、世界の石油の生産と流通って欧米系の大石油会社が握ってるんです。


中島:

イランから買ったとしても他で売ってくれなければ、これはだって石油がないと一切やっていけないような世の中ですからね。




青木:

結局アメリカ系、イギリス系、オランダ系、会社名を言っちゃうとロイヤルダッチシェルとか、今のエクソンですね、当時はスタンダードウェルカンパニーと言ってたけど。ああいった会社が当時のアングロイラニアン石油と一緒になって、イランから出る石油を買うことは盗人から石油を買うのと一緒だというので、世界の石油消費国に対してプレッシャーをかけたわけです。こうしてイランの石油国有化は見殺しにされそうになったんです。

ところが世界中でただ一国だけ、ただ1社だけタンカーを派遣した国が、そして会社があるんですね。これが出光なんですね。


中島:

そうなんですよ。このときは港にイランの人たちがうわーっと集まって、日章丸を。


青木:

神の使いです。


中島:

すごいですよ。


青木:

当時の社長さんは出光佐三さんといって福岡ご出身ですよね。


中島:

そうですね、宗像のご出身ですね。


青木:

福岡が生んだ英雄ですよ。




中島:

「海賊と呼ばれた男」という作品を読んでらっしゃるかたはもうわかると思います。ずっと戦前から戦中戦後とどんなふうにやってきたかという、切った張ったの世界ですよね。


青木:

そうですよね。その人が日章丸というタンカーを派遣して買い付けていくと。


中島:

これって僕思うんですけど、そんなすごい男が日本にいたんだ、出光佐三さんすごいなと思うんですけど、なんでそういうことができたんですか?


青木:

一番根本にあるのは同じアジア人としてアジアの人が苦しんでいるのを見殺しにできないと。あんまり流行りの言葉じゃないけど男気というやつですよね。


中島:

国はどう?


青木:

国は微妙です。日本国は微妙です。


中島:

日本国政府は微妙だけれども、じゃあ一企業として行ったということですか。


青木:

そうです。交渉なんかも極秘にやっていくんですよね。バレたらオイルメジャーの国際石油資本の圧迫もあるし。


中島:

もちろん出光という会社だって、他の会社ともにずっと取引しているわけですからね。


青木:

そうそう。そういう中でそういう英断を下したわけです。そんなこともあってイランの人たちってものすごく日本のことを信用してますよね。100年前にイランをいじめていたロシアに日露戦争で勝った。そしてもうひとつはこの経験ですよね。苦しいときに日本が助けてくれた。

ところが残念ながら、そのしばらくあとにアメリカの中央情報局、CIAの画策でモサデクさんが失脚させられてしまうんです、クーデターで。


中島:

これがね、なんていうか、すごい話なんですけれども、結局反対派を焚きつけるとか、そこにたくさん資金を流入させるとかして失脚なんていうことがありうるんですよね。


青木:

アメリカにとってイギリスというのは同盟国でしょ。同盟国と敵対したイランのモサデク首相は敵なんです。下手するとこいつはソ連と結ぶかもしれないと。いろんな危機感を感じたわけですね。モサデクさんをクーデターで事実上打倒して、このあとアメリカ資本が入ってきて、イランにいろんな利権を獲得していくわけ。


中島:

親アメリカの政権が誕生するわけですよね。


青木:

そうですね。特に1960年代にアメリカの資本、イギリスの資本なんかを導入して、イランで工業化が促進されていくわけですね。通称白い革命と言われる、いわゆる近代化が進められていくわけですよ。それをきっかけに欧米の文化なんかもいっぱい入ってくる。だいたいイスラム世界って女性があんまり表に出ませんよね。出るときにもベールをかぶりますよね。ところがその女性たちが欧米文化の影響を受けて、ベールを脱いで、ミニスカートを履いて、ゴーゴーダンスを踊り始めるようになる。

それに象徴されるような、いわゆる文化の大きな変容が起きるわけ。そういったことに対して、イスラムの良き伝統を守りたいと思ういわゆる聖職者、こういった人たちが反発をする。あるいは近代化の波に乗れなかった、どうしても近代化って貧富の差を激しくしちゃうので、経済的には発展するけども経済的な豊かさに乗りきれなかった人たち、そういった人たちが不満を持つようになる。そういった人たちの不満をうまくまとめて、1979年に革命がイランで起こるんです。いわゆるイラン革命。リーダーはホメイニさんというイスラム教シーア派の最高指導者。

これまでイランは皇帝がいました、帝政でした、君主がいた。その国で共和制国家、いわゆる君主がいない国家が生まれる。これに近隣のアラブの君主国家、サウジアラビアとかはものすごく危機感を持つわけ。


中島:

自分たちの国もそうなっちゃうんじゃないかってことですよね。


青木:

そうですね。さらにはイランは先ほど言ったように、イスラム教の中ではシーア派なんですね。シーア派というのはイスラム教の中では少数派なんです。まわりのサウジアラビアなんかは多数派のスンナ派なんです。宗派も違う、政治体制も違う、ついでに言うと民族も違う、そこで大きな革命が起こった。その革命がいわゆるサウジアラビアのようなアラブ世界に波及していくかもしれないと。


中島:

それが怖いということでの次の回に話を続けましょうか。


青木:

やっぱり1回じゃ終わらんですね。


中島:

それは終わらないでしょう。








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