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【古代ローマ史②】現代の礎・ローマ法【青木裕司と中島浩二の世界史ch:0060 】



世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。


動画版:【古代ローマ史②】現代の礎・ローマ法

中島:

歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界史チャンネル中島浩二です。そして河合塾のカリスマ講師、世界史の青木先生です。よろしくお願いします。


青木:

お願いします。


中島:

ローマという都市国家が紀元前600年くらい前にできて、それでイタリアのあの全土を治めるまでに200年くらいかかったと。


青木:

紀元前272年にほぼイタリア半島を統一する。ローマという街が約80ぐらいの街を支配する。たくさんの街を支配しないといけないじゃないですか。そのときにローマが編み出したシステムがなにかというと分割統治というシステムです。支配されている連中が結束しないようにいろんな街々と特別な関係を結んでいくんです。特に近隣の街々が結束して自分に立ち向かっていかないように対立を煽るような政策をやっていくんです。これを分割統治といって、これはこのあとの少数者による多数者に対する支配のモデルになっている。


中島:

いわゆる対立を煽るなんていうのは現代でもないことはないですよね。


青木:

それをすごくうまくやってるのがローマなんです。ローマって前回も言いましたけど、特にヨーロッパのいろんな政治のモデルというか、なっていってるんですよ。


中島:

そんなに頭が良い人がいたんですか?そこからどんどん、文化的にもすごいわけですよね、風呂とかにも入ってたんでしょ?


青木:

風呂に入ってます。


中島:

今じゃああんまりヨーロッパの人は入らないですよね。


青木:

ですよね。でも地中海の沿岸って乾燥してるので砂埃にまみれちゃうんですよね。それが嫌だったみたいで。風呂といってもバスタブに入るという風呂じゃなくて、サウナ風呂ですね、スチームの。蒸気のお風呂みたいですね。それで心身を癒して、今度は地中海世界の征服に行くわけですよね。


中島:

これもイタリア半島全土、なんですかね、人間って欲望があるんですかね。


青木:

豊かな地域を支配している人間はもっと豊かになりたいという。


中島:

海水の水と同じですね。飲めば飲むほど喉が渇くという。


青木:

持てば持つほど不自由になるというね。特に前回も言ったけどイタリアってギリシャに比べると農業がそこそこ盛んなんです。土地が自分たちの財産の源であるという発想があるんです。


中島:

だから広げていきたいという。


青木:

土地を広げていきたいという気持ちがあるんです。さらに言うと、イタリアもそこそこ豊かではあるけどももっと豊かな場所があるよねと。特に海の向こうの北アフリカ、特にエジプトとかですね。ゆくゆくはあそこらへんまで支配したいなという気持ちは常にある。


中島:

結局200年かけてこれですよ。こんなにも治められるものですか?


青木:

前回も言ったけど喧嘩も強かったし、なんとかなっちゃったんですね。


中島:

だってこれって全然文化も人も違うわけでしょ。


青木:

全然文化も人も違うんですよ。なのになんで支配できたか。これは結論から言っちゃうとローマが異民族、こういった人たちに対して非常に寛容だった。これ実は世界史ではよく出てくる話なんです。広大な地域を支配し、なおかつ長く保てた帝国ってあんまり異民族に対して細かいことを言わないんです。君たちの伝統慣習についてはこれまで通りやってくれと。なにを信仰してもかまわない。税金だけは払ってくれと。


中島:

結局そこですね。お金さえ納めてくれればあとはどんなにやっても良いよと。


青木:

ご自由にと。これはイスラムの大きな国々もそうだし、中国も原則的にはそうです。でっかい国ほど寛容にならざるを得ない。でっかい国でなんでも思い通りやろうと思ったら必ずダメになっちゃう。昔ねアッシリアという国があって、暴力だけでやっている国なんです。これも60年で滅びるし、ナチスドイツもそうですよね。


中島:

結局力で治めようとしてもダメだと。


青木:

うん。力で治めると必ず力のリアクションを受けるんですよ。なあなあでやったほうが結局は長生きできるんだというのは歴史的に人類は学んできているみたいです。


中島:

ただそしたら急に飛んじゃいますけど、それだけ治めていたローマ帝国が滅びた原因ってなんですか?


青木:

滅びたというのがなかなか難しくて、これ実は30年近く前に同じことを生徒から質問されたんです。「国って広がっていきますよね」「確かにそうだね」「なんで滅びるんですか?」って言われたときになんて答えたかというと、「普通そうだよ」と。「お前らだって俺の言う通りにしたくないだろ、自由にやりたいだろ?強い権力がどこにあって、それが広大な地域やたくさんの人間を支配すること自身が実はイレギュラーなんだ」と。崩壊してみんなが好き勝手にやっている状況のほうが実は普通なんだというふうに見ると良いよという話はするんです。

以前中国の歴史のときにも話したことがあるけど、よく中国四千年の歴史といって、王朝交代の歴史みたいに僕らはついつい教えがちなんだけど。


中島:

わかりやすいからですね。


青木:

そう。できた王朝が本当に思い通りに支配できた時代なんて少ないんですよ。


中島:

ほぼないということですね。


青木:

はい。前漢も後漢も唐もね。唐も力は強かったけど、調子がよかったのは最初の40年ぐらい

かな。一応300年持ちますけどね。


中島:

ローマ帝国でこんなふうに言ってるけれども、ほぼそう統治はできていなかっただろうと。


青木:

それこそアメリカ合衆国と一緒で小さな政府なんですよ。ローマには確かに強い権力を持った皇帝がいるっちゃいるけども、結構地方は総督の好き勝手なんです。


中島:

それを許さないとローマ帝国というのが長続きしなかったと。


青木:

そうそう。ただ帝国のまとまりを維持するためにはルールが必要だというので、前回も言ったけどローマ法という法律を作るわけです。ざっくりローマ法と言うんです。なにがすごいかというと、民族・言語・歴史・伝統・風俗・習慣、それが違う連中にも妥当してしまう。



中島:

どういう法律なんですか?


青木:

なかなか具体的にしゃべるのは難しいんだけども、民族の違いなどをクリアする普遍的な法体系というふうに歴史の教科書には書いてあります。それがなんでそういう法律を作れたかというと、ローマ人の中に確信があって、「確かに俺たちはラテン語をしゃべるイタリア

人。だけど海の向こうのアフリカに住んでいる連中、言語も風俗も違う。でも人間として根本は一緒だよね」この核心があるんです。この核心に最初に気づいたのは実はイタリアのローマ人じゃなくてギリシャ人なんです。もっと言うとアレクサンドロス大王の侵略について行った連中。

ちょっと時代は遡っちゃうんですけども、紀元前320年代かな。330年代から20年代にギリシャ、ここを征服したアレクサンドロス大王がギリシャ人の兵士数万人を連れて侵略を展開するわけです。いわゆるアレクサンドロス大王帝国というのを作るわけです。ギリシャからインドの西部まで、インダス川流域までですね。当時農業をブリブリできるとこ

ろといったらメソポタミアとインドと中国だけなんですよね。農業ができるおいしい場所の7割ぐらいをギリシャ人が支配する。この時代を教科書ではヘレニズム時代というんです。ヘレニズムのヘレというのは英雄という意味です。ギリシャ人が英雄と呼ばれるのにもっともふさわしかった。

その時代に実際に少数のギリシャ人が支配するわけです、戦争に勝って。侵略を進めながらギリシャ人が気づいたことがある。なにかというと、各地の文化はすごくすばらしい。すばらしいと感動した次の瞬間にギリシャ人が「ちょっと待て、なんで俺たちギリシャ人に果てはインドの文化のすごさ、イランの文化のすごさ、なんで俺たちはわかるわけ?」


中島:

そこが同じ人間だからということですか。


青木:

そう。見かけも違うし言語も食い物もなんでも違う。でも人間として根本は一緒だから我々には理解ができるのだと。ならばそこさえ押さえておけばみんなに通用する法律も作れるよねというふうにローマ人は考えるわけです。


中島:

これってそう考えたら今の地球上でもなにかできませんかね。


青木:

できちゃってるんですよ。結局広大な地域を支配するためにローマ法って作るでしょ。ローマの政治体制がぐちゃぐちゃになって、いったんローマの枠組みは崩れるんです。生き残った東ローマ帝国というのが再度地中海世界の再征服に成功するんです、紀元後6世紀頃。ただ皇帝がユスティニアヌスという皇帝なんですけども、彼は思うわけ、「言語も通じないところを俺征服しちゃった。どうやって支配する?」そしたらトリゴニアヌスという法学者がいて「心配ないですよ。あなたの大先輩のカエサルさんとか歴代のローマ皇帝、あの時代の法律をもういっぺん復活させてアレンジすればまた通用しますよ」と。で、ローマ法大全という法律書を作るわけですね。これがそれから1200年後にヨーロッパを征服したナポレオン

にとって参考になる。


中島:

えー。


青木:

もともとローマ帝国時代の法律、それをちょっとアレンジして再構成したものが6世紀にできたローマ法大全。それを参考にしてナポレオンが「俺フランス人だけどさ、ヨーロッパの大半を支配しちゃったよね」と。人類みんなに通用するような法律を作らないかん、参考にしたのがローマ法なんです。これがいわゆるナポレオン法典というやつで、ナポレオン法典

の中には人間社会がどうやって運営されるべきかというルールがいっぱい書いてあるわけです。たとえばどういうふうに商売をすべきか、どういうふうに商取引をやるべきか、どういうふうに家族は構成すべきか。そういったもののヒントがいっぱいあるんです。そのベースはローマ法。ローマ法がナポレオンに影響を与え、ナポレオン法典が世界の法体系に影響を与える。イギリスにもフランスにもドイツにもね。


中島:

ということで、ローマ法がなかったら今の我々の法はないよということだったわけですね。


青木:

だからまた世界史教育の話なんですけども、近現代を中心にやるそうなんですよ。これは言わせてください。ローマを勉強せんでヨーロッパはわかりませんよ。本当に。ギリシャ・ローマを勉強せんでヨーロッパを理解しようったって無理ですから、はっきり言って。同じことが中国もそうなんですよ。秦・漢を勉強せんで中華人民共和国を理解できないですよ。もうね。


中島:

今後の受験生たちの教育に向けて、ずっと予備校で教鞭をとってこられた青木先生からの、しかも勉強というのは受験を突破するためだけじゃないということなんですよね。


青木:

世界を理解する。


中島:

そういうことで生きるための勉強なのでですよね。それは世界を理解しないとより豊かな人生にはならないという話で、ローマ帝国2回目でした。








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