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スタッフきつね

【漫画に描かれた歴史⑤】マスター・キートン【青木裕司と中島浩二の世界史ch:0067】



世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。


動画版:【漫画に描かれた歴史⑤】マスター・キートン

中島:

歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界史チャンネル中島浩二です。そして河合塾のカリスマ講師、世界史の青木先生です。よろしくお願いします。


青木:

お願いします。


中島:

漫画で見る歴史というのをここのところずっとやっていますけれども、続いての作品はなんですか?


青木:

「マスター・キートン」。


中島:

浦沢直樹さんですよね。


青木:

そうですね、浦沢直樹さんといえば「YAWARA」とか「二十世紀少年」。


中島:

トモダチというものですよね。


青木:

あの作品の作者なんですけれども、彼が絵を担当して、プラス原作ですね、これが勝鹿北星という人で。


中島:

そうなんですか、原作がいらっしゃったんですか。


青木:

浦沢さんも原作に絡むことはあるんですけども、本当には筋立てとかは勝鹿北星さん、本名木村はじめさんですかね。


中島:

勝鹿北星って完璧に北斎。


青木:

「ゴルゴ13」なんかの原作にも関わってらっしゃるらしい。もう手練れですよ。


中島:

ゴルゴの話をすると、1回乗ったタクシーの運転手さんがいろいろニュースの話を振ってきて、「運転手さんよくご存知ですね」って、「ゴルゴに書いてあったでしょうが」って。ゴルゴって普通に思うかもしれませんが、「ゴルゴ13」はかなり国際情勢をわかったうえで、しかもこれはハードボイルドとかの書き方と同じですけど、こんなことがあったらしいとかいう噂とか史実をうまく組み合わせてひとつのお話にしてるんですよね。


青木:

筋書きが完璧なんですよね。しかも実在の人物が実際に出てきたりするので。


中島:

そうなんです、中東の話とかですね。


青木:

ゴルバチョフも出てきたし、映画も出てきて。


中島:

だからそういう意味では「ゴルゴ13」はあまりにも当たり前すぎて紹介しませんでした。


青木:

「ゴルゴ13」のさいとうたかをさんのプロダクション、僕、行ったことがあるんです。ちょっといろいろな交渉をしに。行ったら入口に等身大のゴルゴ13がいて、首から「用件を聞こう」と。


中島:

「用件を聞こう」というのは仕事を受けるときの決めゼリフなんです。作画も、いろんな街が出てきますけど、ほぼその街のちゃんと風景を事細かに書いてあるんですね。


青木:

そのリアリティがあの作品の、そうでなければ200巻続かないですよね。


中島:

だからおじさんが好きなんですよ。街の中華とかね散髪屋さんに行ったらだいたいありますからぜひ皆さんご覧いただいて。「マスター・キートン」の話ですよね。


青木:

「マスター・キートン」なんですけども、主人公が平賀・キートン・太一という人で、日本人のお父さんとイギリス人の女性との間に生まれた子どもという、設定はですね。年齢はは

っきり書いてないけど推定では40歳代で、今度大学に進学するぐらいの娘さんが1人いるというんです。出身がオックスフォード大学の考古学科。なんですが、そのあと軍隊に志願してイギリス軍のいわゆる最精鋭部隊といわれるSAS、特殊空挺部隊、スペシャルエアサービス。その新兵訓練の教官を務めるわけです。その新兵訓練の教官のことをマスターといって、それがマスター・キートン

という。ただイギリス軍でしょ、フォークランド紛争に彼は従軍するんですよ。そのときにいろいろあって軍隊では私は生活できないというので軍隊をやめて考古学の大学の先生をアルバイトなんかでちょこちょこやりながら、基本的にはイギリスの保険会社ロイズ、これの調査員として、実際上は探偵みたいなことをやりながら生活をするんです。その彼の軍人としての力と考古学の知識みたいなものがうまく合わさっていろんな問題に遭遇していくわけです。

さっきの説明された「ゴルゴ13」と一緒で本当に筋立てがしっかりしていて、「ゴルゴ13」と一緒で1話完結なんですよ。25ページから30ページくらいで。


中島:

わりと読み応えがあると。


青木:

ひとつのテーマで読み切りなのですごく満足感があるんです。歴史学的な知識もそこかしこに出てくるし、なるほどと思わせるところもあるし。ラブロマンスを描いたりもするんだけども、話の筋立ての完成度が半端じゃないんですよね。


中島:

それはたとえば歴史とどういうところが?


青木:

これは千差万別で、たとえばルーマニアにチャウシェスクという独裁者がいたじゃないですか。そのチャウシェスクが実は亡くなる前に資産をたくさん残していた。その資産をめぐる攻防で元ルーマニアの秘密警察と戦ったり、そういうシーンが出てきたりするんです。そういうものを描いたりする一方で、ちょっとほんのりするような、出てくるんですね。

どれもこれもおもしろいんだけども、特に僕が印象に残ったのが単行本の第15巻に出るんですけど「真実の町」という作品があって、これは太平洋戦争中にイギリス軍の兵士が日本軍の捕虜になる。東京近郊のある街に捕虜収容所が作られてそこに収監されて虐待を受けるわけです。虐待を受けながら近くの鉱山で働かされる。その中で仲間が次々と死んでいくわけです。戦争が終わったあとイギリスに戻るんだけども、自分としてはもういっぺん捕虜収容所があった場所、自分たちが苦労した場所に行って、そこで亡くなった人たちを弔いたいと。プラス、もうひとつなにか知らんけど自分をそこに惹きつけるものがあると。彼は来日するわけです。たまたま来日したラザフォードという元兵士なんですけども、とマスター・キートンがひょんなことから知り合うことになって。一緒に捕虜収容所のあった場所を探しましょうとなるわけです。「間違いない、たぶんここにあったはずだ」という街があってそこに行くんですけども、街の連中も町長も「いや、そんな捕虜収容所なんかなかったよ。そんな歴史はないよ」と。「小学校の先生がよくそのへんの歴史が好きな人がいるから行ってみたら?」と。その小学校の先生も「僕はこのへんの郷土史を一生懸命勉強してるけども捕虜収容所があったなんていう話は聞かないな」と。で、探索が頓挫しそうになるわけです。ところが小学校に行ったときに子どもたちが縄跳びをしているわけです。その縄跳びをしながら歌を歌って、その歌の文句の中に「ふたつ、二子山の鬼さんは青いお目目に血の涙」と。要するにかつて白人の人たちが連れてこられて虐待を受けたとい

うことが子どもたちの数え歌になっている。マスター・キートンはここに収容所があったことは間違いないですよねと。するとそこに町長の車を運転している運転士がやってきて、もう歳は70を過ぎてるんですけど、「正直に申し上げます。私は捕虜収容所の監視をしておりました。ラザフォードさんもこのことは覚えてらっしゃらないと思うけど、実際にひどいことをたくさんやったから」と。その街は宅地造成で景観が変わりつつあった。町長に頼んだら町長が、町長はもちろんそのへんのことをよく知ってるわけです。一角だけ造成地から外して、ただ石碑かなんかを建てるとそこにそういう悲しい歴史があったとなるとニュータウンとしてはまずいというので石をひとつ置くことだけ認められた。ここにあなたたちが苦労した収容所があったんですと。そこに兵士ラザフォードが立って、「ここでみんな死んだんだよな」と。彼はふと見上げるんです。そこに満開の桜があるわけです。ラストシーンはそれなんです。「これだ」と。「これを僕は見たかったんだ」と。


中島:

もう胸が締め付けられますね。


青木:

それがもう、浦沢さんの絵って非常に丁寧で、女の子なんかもかわいいんです。そういうどちらかというと淡々筋が進んできて最後に見開きで桜の木の前に立つラザフォード氏の姿が映るわけですよ。「これを私は見たかったんだ」と。最後救われて話が終わるというね。


中島:

いやー。戦争を知らない世代ではもちろんあるんですけど、そのときどうだっただろうなとか、大変な状況の中でも花は咲いていただろうしとかいろんなことを想像させますよね。


青木:

虐待されながら殴り倒されてパッと、ふっと見たときに美しいものがあった。それを自分は見ようと思っていたんだ、それが最後の最後でわかるわけです。とかマスター・キートンの先生がオックスフォード大学の先生なんですけど、彼が苦学をしているというのを知って「君にプレゼントをあげよう」と。なにかといったら、教授しか入れない書庫のカギなんです。そのカギをもらって彼が学生時代、回想シーンなんですけど、書庫に入っていってバーっと本を見るシーンがあるんですよ。これもすごくグッとくるというか。「これを俺は全部読んでやる」と。本を読んでいろんなことを知ることができる喜びみたいなものをマスター・キートンが表現するところがあってね。そういうのもすごく良いんですよね。


中島:

いろんな歴史のなんだかんだを題材に1話完結で書いているということだそうです。浦沢直樹さんと。


青木:

絶対におすすめです、「マスター・キートン」。


中島:

ずいぶんと歴史から外れますね。また次回からちゃんと歴史の話をしましょうね。


青木:

ちゃんとね。


中島:

以上です。








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