世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの「青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。
(前回の記事【漫画に描かれた歴史⑤】マスター・キートンはこちら)
動画版:【古代ギリシア】枢軸時代・思考の基本が完成
中島:
歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界史チャンネル中島浩二です。そして世界史のカリスマ講師、河合塾の青木先生です。よろしくお願いします。
青木:
お願いします。
中島:
今回から古代ギリシャ、古代ローマはやったんですけれども、それを遡ること200年ぐらい前、僕がどうしても古代ギリシャというとソクラテスがいたりだとか、それからアリストテレスだとかヒポクラテスとか、今に通じる数学だとか、それから思想、そういうところが紀
元前の500年ぐらいですかね。
青木:
その前後ですね。
中島:
そのあたりでもう確立されていたということで、今から2500年ぐらい前は我々と同じような考えで社会が営まれていたんだろうなって、これなかなかわからないじゃないですか。そういう話をしたら、実は先生が古代ギリシャ、紀元前500年ぐらいのときに世界同時多発的に
思想というところ、思想宗教が結構いろいろ出てきたと。
青木:
歴史学では枢軸時代という言葉があって、人間の頭の中の基本ができあがった時代だった。
中島さんが今おっしゃったように古代ギリシャにソクラテスとかアリストテレスとかプラトンが登場した頃、だいたいそれから幅200年くらいの間にたとえばインドには仏陀、仏様が登場すると。それから中国には儒教を作った孔子が登場する。ペルシャにはゾロアスター教というペルシャ人の民族宗教なんですけど、これが生まれる。中近東パレスチナではいわゆるユダヤ教ですね、これが今日のような形として成立していくわけです。
人間の頭の中を支配しているいろんな考え方、あるいは宗教みたいなものがだいたいこの
2500、2600年前後にできちゃったんです。
中島:
いろんな考え方があったんでしょうけど体系化されて、その宗教とか思想とかが成立するということは、それによって人間社会が回っていくということ、組織とか政治とかそういうことにも影響を与えるということですよね。
青木:
振っていただいたので説明しておくと、枢軸時代にいろんな思想家や宗教がなんで同時多発に出てきたか。当時たぶん世界的に社会が大きく変化していった時代なんですよ。けれども昔の人たち、ほとんどの人間は農業をやっていますよね。中国が一番わかりやすいと思うん
だけども、たとえば黄河を相手に農業をやると。今の農業って基本的に核家族、家族単位でやってるじゃないですか。家族単位じゃ黃河相手の農業ってやってられないんですよ。
中島:
大々的なものということですよね。
青木:
ちょっと難しい言葉ですけど氏族共同体、あるいは氏族集団、親戚一同ですね。中島一家じゃなくて中島一族。お葬式のときに集まる遠い親戚も含めて。そういった300人とか400人ぐらいのチームを作らないと黃河を相手にした農業ってできなかったんです。
ところがそれこそ今から2500、2600年頃前に鉄器が人々の生活に普及し始める。必ずしも300人のチームを作らなくても農業生産活動ができるようになって。
中島:
いわゆる生産コストというのが低くなって大量に生産できるようになる。
青木:
必ずしもたくさんの労働力も必要なくなってくると我々がよく知っている社会、すなわち家
族を中心とした社会というのが生まれていくんです、単家族を中心とした。それがいろいろうごめくことによってこれまでは出会うことのできなかった遺伝子と出会うようになるんです。たぶんそれが人間の頭の中を活性化させていろんなことを考える力を与えたんじゃないかと言われているんです。
中島:
そうやって出会っていくということになると、いわゆるアイデンティティとか考え方とか、そういうことをひとつきちんと持つということは大切ですよね。
青木:
そうですね。これまでは一族の中に埋没してたじゃないですか。家族単位になっちゃうと、
そこから「俺ってなに?」って。個人を意識するようになるわけです。
中島:
内省に向かうということですよね。
青木:
人間とはなにか、いわゆる哲学。あるいは人間はなににすがって生きれば良いのか、宗教みたいなものがどんどん確立をしていく。それがさっきからなんべんも言っていますけど、世界同時多発的に起こったというのは。
中島:
いわゆる世界が同じように成長してきた証ということですよね。
青木:
そうですね。これは唱えたのがドイツの哲学者でヤスパースという人がいて、ドイツ人の哲学者なんですけども、彼に言わせると彼はドイツ人、ヨーロッパ人ですから、どうしてもヨーロッパの人間ってヨーロッパが一番すごいみたいなことを考えるわけです。でも歴史的にいろいろ考えると世界は一緒だと。先ほど言ったように同じ時期に考え方の基本というのができあがっているからみたいなことを言うんです。
さっきペルシャにゾロアスター教が生まれたという話をしたじゃないですか。普段はめったにゾロアスター教について語らないので。
中島:
でも聞いたことは皆さんあると思うんですよね。ゾロアスター教とかいったら聞いたことはあるけれどもどういう宗教なのか。
青木:
ゾロアスターって読み方を変えるとツァラトゥストラになるんです。
中島:
ツァラトゥストラは「かく語りき」。
青木:
はい。リヒャルト・シュトラウスの曲にありますけど。2001年宇宙の旅のね。
中島:
音楽を本当はかけたいんですけれども著作権の関係でかけられないので私が口で。そういうことなんですか。
青木:
イラン人ペルシャ人の間にゾロアスターという、ツァラトゥストラというのが登場して。
中島:
人ですか?
青木:
人間です。ただ詳しいことはわかっていないです。できたゾロアスター教というのがユダヤ
教とかいろんな宗教に影響を与えていくんです。大きな特色はなにかというと善悪二元論。世界は2つの世界からなっていると。このへんはたとえばキリスト教の中でもカトリックと違うんです。カトリックって一元論ですべては神様が支配する。悪魔っているけどもひとつの世界を作っているような存在ではないと。これに対してゾロアスター教って完全に世界は2つなんです。光明神が支配する善の世界と悪の神様が支配するどうしようもない世界。人間はその間にあってどっちに行くかはあなたたちの心次第ですよと。
中島:
これは仏教にも相当影響を与えて、陰と陽とか陰陽みたいな、そういうことですよね。
青木:
特に仏教の中でも中国を経て、中国仏教に影響を与えていると。
中島:
だからやっぱりずっと世界はつながっているんですね。
青木:
そうですね。ついでに光明神のアフラ・マズダ、アルファベットで書くとAhura Mazdaになるんですが、どこかで見たことありません?
中島:
車のメーカーでマツダ。
青木:
そうですね。初代社長さんは松田重次郎さんというかたなんですけども、マツダだったらMATSUDAみたいな感じ。なんでMAZDAになったかというと、ゾロアスター教なんです。
中島:
そうなんですか。
青木:
戦前からマツダって車を作っている、オート三輪とかを作っているんですけども、国民に車を提供することによってで明るい社会を作っていきたいと。マツダ工業が自動車産業の光となるように光の神様アフラ・マズダ、社長さんの名前も松田だよね、じゃあ。
中島:
そのままマズダでやろうということなんですか。
青木:
なったらしいですね。
中島:
もちろんゾロアスターという人だって、もともとなにもないところからポンと出てきたんじゃなくて、そのときずっと成長していた思想をかき集めて体系化したみたいなところはあるんでしょうけれどもね。
青木:
だいたいそうですよね、みんな。
中島:
仏陀もそうですもんね。
青木:
仏様もそうですね。今回の中島さんのオーダーの古代ギリシャ。
中島:
ソクラテスなんて皆さん、哲学者ですよ。しかも奥さんはものすごくソクラテスに厳しかったというね。
青木:
クサンティッペという人ですね。
中島:
「ブツブツ言ってんじゃないよ」って。いやいや、それが仕事だから。あれは本当なんですか?
青木:
結論から言うとクサンティッペが怒るのも無理はない。
中島:
結局哲学をやっても食えなかったらしいですね。それで「ぶつくさやってんじゃないよ」ということで怒られていたという。だからソクラテスの言葉で「良い妻を持てば幸せになるだろうし、悪い妻を持てば哲学者になれるだろう」という言葉まで残してるんですよ。
青木:
そのソクラテスを育んだギリシャなんですけど、地図を見せますね、こんな感じ。
中島:
僕はギリシャは行ったことないので行ってみたいんですよ。グランブルーのオープニングがギリシャじゃないですか。あれを見たら、それから「エーゲ海に捧ぐ」という映画も。
青木:
ちょっとエッチなね。
中島:
池田満寿夫監督が撮りましたけれども、あれもギリシャだったということで、美しいところでしょ?
青木:
美しいですね。確かに海はグランブルー。だけど山は木が生えてないですね。普通の木は生えることができないです。理由は土地がやせている。もうひとつは乾燥している。乾燥して土地がやせているところでなんとか生きていける植物といったら柑橘系だけなんですよ、オリーブとかああいったものだけなんです。オリーブなんてものすごい根を張ってくれるらしいですね。乾燥した大地でも深く根を張ることによって地下には必ず水がある。はっきり言うとオリーブぐらいしか生育できないような貧しい場所なんです。そこに古代ギリシャの煌びやかな文明が発展するわけなんですよね。
中島:
なんでそんなところに文明が発展するのかというのは来週にしますか。今週は触りだけでしたけれども、そんな貧しいところになぜ人々が集まって国家を作り、文明が花開いたかというところに行きます。
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