世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの「青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。
(前回の記事「準備中」)
動画版:「ロシアによるウクライナ侵攻①【ウクライナとは?】」
中島:
歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界史チャンネル中島浩二です。そして河合塾のカリスマ講師、世界史の青木先生です。よろしくお願いします。
受験でひと段落したということで、先生が受験生といつも一緒だから、なかなかオミクロンが拡大してるときというのは。
青木:
ちょっと心配だったのでね。
中島:
人と接触がなかなかできないということで、ちょっとお休みいただきましたけれども、お休みをいただいている間にロシアがウクライナを侵攻しちゃって、ここのところは歴史的な背景を知らないことには、たぶんあのニュースにまず触れた人たちは「うわ、なんだなんだ、急に」というところですよね。
青木:
そうですよね。なおかつあんな大軍でウクライナにロシアが侵攻するなんて予想した人ってほとんどいなかったですよね。
中島:
ただ今回僕びっくりしたのは、アメリカがずっと情報を出してたでしょ。こういういわゆる戦争ですよね、侵攻というところからの戦争なんですけど、そういうときって情報をあんまり出さないというところだったりとか、それから言っちゃなんですけど、大量破壊兵器があるといってイラクにワーッと仕掛けていきましたけれども、結局大量破壊兵器はなかったみたいなところもあったので、このアメリカの情報がどれくらい正確なものなのかって最初思っていたんですけども、かなりの精度で。
青木:
すごかったですね。
中島:
結局これはロシアの侵攻を食い止めるために俺たちはここまで知ってるんだよというところもあって、かなり正確な情報をずっと出し続けて、言った通りにロシアが侵攻したと。
青木:
だったんですよね。ちなみに言うとアメリカに関しては中国に対してもこの情報をずっと出してたんですよ。「プーチンはやるぞ、あんたからなにか言ってくれねえか」と。中国は「そんなバカな」という対応だったらしい、ずっと。
中島:
中国に関してはある程度精度の高い情報ですけれども、北京オリンピックの間はやってくれるなということを言ってて、これは本当かどうかわからないですけれども、オリンピックが終わってパラリンピックが始まるまでにはどうやらロシアはウクライナを落とせるんじゃないかと思って行ったんじゃないかという。
青木:
プーチンはたぶんそのつもりだったでしょうね。それから中国がオリンピックの間はやってくれるなと。プーチンさんから北京オリンピック、オリンピックが始まる前に来たじゃないですか。そのときにどうも侵攻するみたいなことは聞いたらしい。だけどあんな大規模な侵攻とは習近平自身も思っていなかった節がある。
ウクライナの東部2州、ルガンスクとドネツク。今のところ新ロシア勢力が実効支配してるんだけども、そこに行くぐらいだろうというふうに思っていたみたいなんですよ。日本のいわゆるロシアウォッチャーと言われる人たちも、大規模なあんな侵攻があると言っていた人って僕の知ってる限り1人だけですね。小泉悠さんだけだったですね。
中島:
先生がいつも言うように「始めるときにはすぐ終わるよ」という、たぶんプーチンさんも今回そういうふうに思っていたのがそうはならなかったというところですよね。
青木:
2月の下旬にだんだん状況が緊迫化していく中で、大規模が小規模かはわからないけども軍事侵攻はやるだろうという話にだんだんなってきたんですね。ただし3月にずれ込むとかなり厳しくなるという話は前から言われていたんです。なぜかというと雪解けが始まるんです。
中島:
これがいわゆるナポレオン、それからドイツ。
青木:
特にドイツね。
中島:
そうですよね。結局冬将軍というか、寒さもそうだけど、今度は寒さから暖かくなるときに足場がぐちゃぐちゃになってなかなか戦えないという。
青木:
ロシアの冬の寒さ、ウクライナの冬の寒さ、冬将軍も大変だけども、雪解けしたら今度は泥将軍という言葉があるらしくて。
中島:
戦車がなかなか思ったように進めない。
青木:
動けなくなるんです。どっちにしても短期間でやらないとまずいよというのは侵攻するロシア側もあったらしいと。いろいろ困難な条件があるので、そんな大それたことはしないだろうと思っていて、僕も思っていたんですよ。そしたら昼寝してたらうちの息子が「お父さん、ウクライナがやられよるよ」と。飛び起きましたよ。日本時間のお昼ぐらいだったかな、第一報が入ってきたの。
中島:
これが本当にいつなのかいつなのかという、ずっと緊迫した状況の中で第一報が入ってきて、ついに行ったかというふうに思った人は多かったと思います。
青木:
ということで皆さんの関心も非常に大きいと思うので、単に今起こっている出来事を日本から見るだけじゃなくて、ロシアとウクライナの関係性、どういう対立、あるいは関係性がもともとあったのかとみたいなことまで世界史の教師のレベルですけれども。
中島:
どこからいきますか、ソ連時代よりももっと前というところ、だってもともとウクライナというのは、かなり乱暴な言い方ですけれども、日本で言うところの京都みたいなものだという。
青木:
それはおっしゃる通りなんですよ。そのへんを含めていってみたいと思います。
まずウクライナがここです。黒海の北側ですね。
真ん中をドニエプル川という川が流れていて、それからこれは簡単な地図で恐縮ですけども、激戦が行われている場所。首都のキエフはかなり北のほうになりますね。東部のほうが親ロシア勢力が実効支配している。南部の黒海沿岸で激戦が行われている。特にマリウポリ。
中島:
もともとクリミアというところがウクライナにあったんですけど、ここをどうしても海に出るところが欲しいということで、ロシアが一度クリミアにワーッと入っていっちゃったんですよね。
青木:
8年前の2014年。今のロシアの動きとすれば、今というのは3月下旬です。黒海沿岸の地域をロシア勢力で抑えたいと。ちなみにここにヘルソンという街があるじゃないですか。僕、ヘルソンという地名を聞いたときにあっと思ったのが、今から50年ぐらい前にヘルソンの近郊で撮られた有名な映画があるんです。それがソフィアローレンとマルチェロ・マストリヤンニが主演した「ひまわり」という映画。
中島:
ご覧になった人がどれくらいいるかどうか。
青木:
ポスターを持ってきたんですけども。
中島:
これが涙なくしては見れないという、イタリアの兵隊さんのマルチェロ・マストロヤンニが戦いで取られるんです。その戦いの直前にソフィア・ローレンと恋に落ちるのか、それとも戦争に行きたくないというところで、どっちもどっち、実は恋に落ちてハネムーンのときには戦争に行かなくて良い。その2人が恋に落ちて、なんとか戦争に行かなくて良いようにしようというふうに言って、ちょっと精神に異常をきたしたみたいにするんだけど、そんなことはまかり通らずに。
青木:
よう覚えてますね。
中島:
もちろんです、何度も見ました。それで結局は戦争で出ていくんですけれども、そこで傷ついて倒れてしまって、一時記憶がなくなってしまったときにロシアの女性と恋に落ちて。
青木:
リュドミラ・サベーリエワという美しい女性だった。
中島:
ソフィア・ローレンはどちらかというとラテン系の、情熱の、そのソフィア・ローレンがひっそりとイタリアでお母さんと暮らしていて、どうしてもやっぱり探しに行くといって探しに行ったときに、そこでもう生活が始まっているという。あの洗面所に行ってワーッと泣いてる顔を洗う。あのシーンはもう本当に。
青木:
切ないシーンやったですね、あれね。
中島:
戦争がいかに人間を引き裂いてしまうかというのを描いた、ひまわり畑が美しかったですけれどもね。
青木:
ちなみにこのヒマワリをなんで作っているかというと、油を取るためなんです。ウクライナってずっとヒマワリ油の生産が1番だったんです。この2、3年でロシアに抜かれちゃったけど。これ黄色でしょ、青空でしょ、なにか思い出しますよね。
中島:
ウクライナの国旗です。
青木:
そうなんですよね。今から考えるとこれってウクライナの国旗だったんだと。
中島:
ということですよね。それぐらい穀物地帯ということで。小麦もロシアとウクライナで世界の30%ぐらいを賄っていると。
青木:
日本も輸入しているし、中国がたくさん輸入してるんですよね。
中島:
皆さんの生活でも油が高くなるとか、小麦がパンがとか、パスタがというのはこういうことに由来してますよね。
青木:
これからどんどん影響が出てくると思うんですよね。あとウクライナ出身の有名人として結構芸術家が多いんですよ。クラシックが好きな人だったら知ってると思うけれども、これはウラディミール・ホロヴィッツという20世紀最高の天才ピアニストですね。この人がユダヤ系のウクライナ出身の人。アメリカに行って有名になるんですけどね。これはリヒテルという、これも20世紀を代表する超絶技巧のピアニストなんです。この人もウクライナ出身です。ちなみに彼のお父さんはドイツ系で、戦争が始まった直後にソ連の秘密警察に処刑されてしまうんです、第二次世界大戦のとき。あとヘリコプターで有名なシコルスキー。
あれはもともとウクライナ出身の技術者だったんです。革命の難を避けてアメリカに亡命してヘリコプター。あれで有名になるんです。ちなみにキエフの近くにシコルスキー空港というのがあって、たぶんこれはシコルスキーの名前から来ていると思います。あとサッカー選手で言うとシェフチェンコ。
中島:
シェフチェンコさんがね、今どうしてるのかなと思って。監督を、イタリアのチーム、解任されて、そのあとにこの侵攻があったので、ウクライナの英雄ですよ。
青木:
そうですよね。なんとかチェンコという語尾につく名前というのがウクライナ系が多いらしいですね。いろんな有名人がいて、技術者も多いし、科学者も多いし、芸術家は特に多いですね。そういう場所なんですよね。
中島:久しぶりに始めて、我々も話が止まらないという感じですけれども、ウクライナ、こんなところだよという今の現状からちょっとご紹介しました。今日はイントロダクションです。ありがとうございます。
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