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ユダヤ人の歴史(4)フランスでも迫害は続く【青木裕司と中島浩二の世界史ch:281】



世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。



 

中島:

歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界史チャンネル中島浩二です。そして河合塾のカリスマ講師、世界史の青木先生です。よろしくお願いします。

 

青木:

お願いします。

 

中島:

イスラエル・パレスチナ、心配ですけれども。

 

青木:

そういった歴史を理解するためには、あそこに住んでらっしゃる皆さんが信仰している宗教についてもある程度。

 

中島:

歴史的なところも踏まえて見ていかないとということですよね。

 

青木:

私が心配しているのは、あくまでこれは異教徒である、仏教徒である私の見方なので、それが100%正しいと全然申しません。ただ、僕は仏教徒で、もちろん仏教ってすばらしい教えがいっぱいあるなと思うけども、他の宗教がつまらないとはまったく思わないし、それはいろんな神や仏の教えというのが人々をこれまでたくさん幸せにしてきたので、お互いにそれはそれで尊重する必要性はあるんじゃないかと。

にも関わらずキリスト教世界であるヨーロッパではユダヤ人というのはいろんな時期で迫害を受けてきた。

ところが18世紀以降、ちょっと状況が変わるんです。というのも、ヨーロッパに啓蒙思想という流行った思想があって、どういう思想かざっくり言うと、人間には理性というものがあると。人間には理性、すなわち物事を論理的に読み解く力、論理的に理解する力があると。その理性を持つ存在として人間は平等なんじゃないかと。「あなたはユダヤ人だから人間として劣ってるよね」「あなたはフランス人だからすばらしいよね」というのじゃないと。人間にはみんな理性があるんだから、その理性を尊重し、お互い平等の関係で理性が命ずるままに正しい世界を作っていこうと、これを啓蒙思想といって。

 

中島:

基本的には正しいというか、ですよね。

 

青木:

特に宗教の力というのがだんだん弱くなっていって、人間が科学に目覚め始める、そういったものを背景にして啓蒙思想って生まれていくんです。理性の力、理性の命ずる姿に社会を変えていこうと、それを現実化したのがフランス革命だったんです。

そういう中で、特にフランス革命が始まったのは1789年なんですけども、その年に革命に立ち上がった人たちが人権宣言を出すんです。これからフランス国家というのを作っていくと。フランス国家を動かす基本的な法典である憲法を作る。その憲法を作る前に、フランス国民とはどういう人間でなければならないかというので人権宣言を出すわけです。なんと書いてあるかというと「人間は平等である」と。

そこで初めてユダヤ人に対する差別みたいなものを公的に否定したんです。これはたぶん当時のユダヤ人たちからすればすごい

 

中島:

大きな出来事ですよね。

 

青木:

だったと思うんです。ところがそれが長く続かなかったんです。19世紀になって、たとえばバラバラだったドイツがドイツ帝国という統一国家になると。イタリアもバラバラだったけどもイタリア王国という統一国家になると。そういった動きがヨーロッパで起こってくると、前回、前々回も似たような話だけども、国民として認められる人と、国民として認められない人がどうしても出ていくわけです。「俺たちは日本人だよね」といったときに、そうでない人たちがしばしば差別選別の対象になると。同じようにヨーロッパ世界、ヨーロッパの国においては「フランスという国はキリスト教徒が多いんだろ」と。その中で「あなたたちはユダヤ人だよね」と。それに対する迫害というのがどうしても起こってくるんです。

なおかつ19世紀の中盤から後半になってヨーロッパの国々がアジアアフリカに植民地を求めて侵略を開始するわけ、いわゆる帝国主義の時代ですね。すると軍備を整えて対外侵略をし戦争をやると。あるいは侵略をする国々同士の対立も激しくなると、いつイギリスとロシア、フランスとロシア、フランスとイギリスの間で戦争が起こってもおかしくない。じゃあ戦争が起こっても対応できるように国民的な統合を強めようと。国民意識、英語表現でいうとナショナリズムですね。これを強めていこうと。そういう動きがヨーロッパ各地で起こってくるわけです。ちなみにいうとその中で「君、ドイツ的じゃないよね」「君、フランス的じゃないよね」いの一番に挙げられたのがユダヤ人だった。さらに言うと日本もそうなんですよ。極東で肌の色が黄色い連中が目障りな動きしてるよねと、これは黄禍論と言いまして、黄色い肌の連中、具体的にいうと日本なんだけど、それがヨーロッパのキリスト教世界に災いをもたらす。じゃあヨーロッパではというと、ユダヤ人が国民的な結束を満たす恐れがあると。ロシアとか東ヨーロッパの地域ではしばしば組織的なユダヤ人に対する虐殺が起きるんです。これをポグロムと言いまして、19世紀の半ばから後半ですね、たとえばロシアで飢饉が起こる。あるいは皇帝が暗殺されるという事件が起こる、「これはユダヤ人がやったんだ」と。そのたびにユダヤ人が虐殺されたりするわけです。

そういったのが嫌で19世紀の後半から数年かけて、ロシア、東欧からたくさんの人たちがアメリカに逃げていくんです。ちなみにそういった人たちをルーツに持つのがスティーブン・スピルバーグなんです。あのかたは確かルーツはロシア系のユダヤ人ですからね。

こうして再びヨーロッパでユダヤ人であるがために差別をされると。決定的だったのは1894年にフランスで起こったドレフュス事件。フランス国軍、フランスの軍人にドレフュスさんという人がいて、この人がフランス軍部によってドイツのスパイに仕立て上げられちゃう。このかたはユダヤ系のフランス人なんですね。フランス軍部が言うには「ドイツは我々フランスに対して戦争を考えている。その証拠にドイツは我々フランス軍部の中にたくさんのスパイを放っている」と。「たとえばこいつだ」と。ドレフュスさんが無実の罪を着せられるわけです。

しかも彼はユダヤ系だったので、キリスト教の国、キリスト教が多数を占める国であるフランスにおいてはあげつらいやすいというか。これにユダヤ人の人たちががっかりしちゃうんですね。かつて人権宣言を出したフランス、「そこでも俺たちってユダヤ人ということで差別される。もうヨーロッパに住処はないじゃないか」と。で。

 

中島:

アメリカですか。

 

青木:

一部はアメリカ。そして一部はかつて我々のご先祖様が住んでいたパレスチナに、そこに戻ろうじゃないかという動きが起こってくるんです。エルサレムにシオンの丘というのがあって、ある意味ユダヤの人たちにとってみればランドマークですね。日本人にとってみたら富士山みたいなものです。そのシオンの丘にもういっぺん我々の住処を作ろうと、こうして19世紀の末、ドレフュス事件が大きなきっかけになって、パレスチナに戻ろう、パレスチナにスカを作ろうといういわゆるシオニズム運動というのが急速に高まっていくわけですね。

 

中島:

でもそのときにパレスチナというところは国家ではなかったわけですか?

 

青木:

支配領域としてはオスマン帝国、イスタンブールに都を持っている、トルコ人が支配民族であるオスマン帝国というのが支配してるんです。今のバルカン半島の南側、小アジア半島、今はシリア、パレスチナ、ヨルダン、イラク、それからアラビア半島の特に海岸地帯ですね、そこはだいたいオスマン帝国というトルコ人の国ですね。それが支配しているという状況。

 

中島:

ただ支配はしているけれども、あとからまた国が分かれていくということだから。

 

青木:

基本的にはイスラム世界、特にアラブ人の社会というのは遊牧世界から発展していったので、部族のつながりが非常に強いんです。いろんなアラブ人の部族がたくさんいるという状況ですね。その多くはイスラム教徒。ただ、アラブ人の中にもキリスト教を信仰している人っているんですよね。今でも結構いますよ、たとえばエジプト。数千万の人口があるけども一千何百万は確かキリスト教徒ですよ。かつて国連の事務総長をやってたガリさん。あのかたはキリスト教徒です、確か。

あとイスラエルの北側にレバノンという国がありますけども、あそこも民族的にはアラビア語をしゃべるアラブ人がほとんどなんだけども、宗教に関していうとキリスト教を信仰している人が40%ぐらい。

 

中島:

かなりのパーセンテージなんですね。

 

青木:

それがなぜかというのはいろいろ理由はあるんだけども、ひとつの理由はなにかというと、今レバノンがあるレバント地方って地中海の貿易の拠点なんです。

 

中島:

ということは文化が行き来したということですか。

 

青木:

そうそう。特に中国から持ってくる絹織物とか、インドや東南アジアから持ってくる香辛料をヨーロッパの連中に売りさばくときの貿易の拠点なんですよ。だからキリスト教徒との接触も非常に、なおかつキリスト教徒とうまくやっていった人たちが結構小金を溜め込んでいくと。

 

中島:

ということですね。

 

青木:

だから大多数はアラブ系のイスラム教徒が多かったと思って良いけども、一部にキリスト教徒もいらっしゃったということですね。本当に壮大な話に。

 

中島:

なかなか話が先に進まないですけれども、じゃあ次回お届けします。









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