世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの「青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。
(前回の記事 田中角栄とその時代(9)ロッキード、そして死去はこちら)
動画版:朝鮮の歴史(1)中国王朝の支配~高麗
中島:
歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界史チャンネル中島浩二です。そして世界史の青木先生です。よろしくお願いします。
青木:
お願いします。
中島:
今回からまた新しいバージョンで朝鮮半島を見ていこうと。
青木:
そうですね、よく言われるのがお隣の韓国。正式には大韓民国。それからいわゆる北朝鮮。近くて遠い国と言われてきましたよね。
中島:
海を隔てた隣国。だいたい世界を見渡したら隣国とどこもあんまり仲良くないですね。
青木:
ドイツとフランスがそうであるように。
中島:
領土の問題もあるし、結局そういうところでしょうね。
青木:
もちろん朝鮮半島には朝鮮半島独自の歴史というのがあって、日本以上に中国の歴代の王朝、あるいは中国の北側にいるモンゴル高原を中心として力を持っているいわゆる北方騎馬民族。こういった民族や国家との緊張関係がずっとあったと。日本もなかったわけじゃないけども。
中島:
やっぱり海に囲まれていて、攻めてくるのが大変だというところにいたという温室育ちですよね。
青木:
良い意味でね。だって日本が海を超えて侵略を受けたというのは2回ぐらいしかないですからね。
中島:
一番最初の蒙古襲来。
青木:
その前に刀伊の入寇ってあるんです、女真族のね。大規模なものといったらそれぐらいなんですよね。
中島:
そして黒船がやってきて、開国して、最後の最後の太平洋戦争と。
青木:
そうそう。海の向こうからワーッとやってきて、ワーッとなったって3回ぐらいしかないんですよ。それに比べると朝鮮半島というのはモンゴル高原とも中国大陸とも地続きで、その緊張関係の中で朝鮮の独自の文化伝統みたいなものが作られていく。
中島:
民族が違ったんですか?もともとの住んでいる人たちの言葉だとか宗教だとか。
青木:
宗教は時代による。やっぱり中国の影響を強く受けているのは間違いないんですよね。
中島:
朝鮮半島の民族というのがあったということですね。
青木:
そうです。朝鮮半島もちょっと複雑で、北のほうはどっちかというと今の中国東北地方、昔でいう満州ですね。あのへんから来た人たちのDNAがかなり残ってるという感じなんです。だから朝鮮半島、もちろん朝鮮民族はひとつと言うけども、どちらかというと北の人たちのほうが背が高いとか、南に比べるとね。
そのへん、前近代の歴史も簡単に触れておこうと思うわけですね。朝鮮半島にはもちろん韓民族と言われる人たちがもともと住んでいて、ところが今から2100年ぐらい前に中国から本格的な侵略を受けるわけです。これが漢の時代、中国で言う。漢の一番強かった皇帝に武帝というのがいて、その武帝が朝鮮半島のほとんどを征服しちゃうわけです。
中島:
ちょっと待ってください。漢の時代であのときの民族は何民族ですか?
青木:
朝鮮半島?
中島:
いや、中国のほうです。
青木:
中国ね、これは難しい。
中島:
結局そこも、我々は中国とずっと殷・周・秦・漢なんて言ってますけれども、そこも民族の戦いの歴史ですもんね。
青木:
ついでに言っちゃうと漢の前が秦でしょ、秦は生粋の中国人かというとわからないんですよね。
中島:
そうなんですよ。あそこは北夷だとか南蛮だとか。
青木:
中央アジアのあたりから西のほうから来た人たちじゃないかと、いろいろ言われてるんです。
中島:
いろんな人たちがいるから。ただ今の中国というところをある程度の土地を押さえた漢という国から朝鮮半島がかなり。
青木:
簡単に言っておくと漢字を使って情報を伝達し、いわゆる中国語を使って意思疎通を図る人たち、漢民族ね。その中国王朝のひとつである漢、これが朝鮮半島のほとんどを制圧するわけです。広かったので4つに分けて支配したわけですね。その中で一番有名だったのが今のソウルや平壌を含む楽浪郡というやつ。日本史でも出てこなかったですかね、楽浪郡。楽しい浪の郡と書いて楽浪郡。4つの郡を置いて制圧したわけです。
それから入れ替わり立ち替わり中国の王朝が朝鮮半島に進出をしていくわけです。ところがそこに大きな変化が訪れるのが4世紀。先ほどチラリと言いましたが、中国東北地方に高句麗という国ができて、この高句麗が中国本土をうかがう一方で、朝鮮半島にいる中国人が邪魔だなというので朝鮮半島に進出するわけです。朝鮮半島における中国人の根城であった楽浪郡、これを教科書の表現を使うと「楽浪郡を滅ぼす」。滅ぼすの実態はなにかといったら、楽浪郡を統治していた中国人を追っ払ったと。
一方朝鮮半島の南部のほうなんですけども、朝鮮半島の南部は日本の感覚でいうと村レベルのコミュニティがいっぱいあったんです。ところが高句麗という強い国が上からやってきたので。
中島:
団結してですね。
青木:
これはやばいというので朝鮮半島南部に3つの国ができる。そのうち日本海側にできたのがいわゆる新羅。世界史日本史では「シンラ」と教えています。新羅の羅ってお城と書くんです、実は。一説によると日本人の勘違いで、朝鮮半島を旅した日本人が「朝鮮はどんなふうだった?」「朝鮮半島の南東部のあたりはお城ばっかりだった」と。「新羅はお城ばっかりだった」で新城となったという話があるんです。
朝鮮半島南部の西側には百済ですね。下のほうには弁韓と言ったりニンナと言ったり、訓読みすると任那。その任那はしばらくして百済と新羅によって分割されてしまう。こうして朝鮮半島、6世紀から100数十年間はいわゆる三国時代、朝鮮半島における三国時代ですね。
中島:
百済・任那・新羅。
青木:
それは南ね。北に高句麗がいて、朝鮮半島南部に新羅と百済がいる。その状態が続くわけです。その中で新羅という国が7世紀の後半に朝鮮半島を初めて統一するわけです。新羅と言いますと、さっきも言った百済、今は音読みするんですよね。
中島:
ヒャクサイと言うんですか?
青木:
ヒャクサイと言う。
中島:
見ている人が若い人だったらとか、我々と同じぐらいの時代の人だったら「クダラ」とか「シラギ」でもう良いじゃないかというふうに思われるかもしれませんけど、YouTubeは何歳の子が見てるかわからないし。
青木:
字幕も出しますから、ちゃんと。
中島:
しかももしかしたら受験生が見て。
青木:
それが一番怖いですよ。間違いを。
中島:
塾講師ですからそうなんですよね。
青木:
新羅という国が朝鮮半島を統一する。その前に百済という国もあって、たぶん6世紀ぐらいですね。朝鮮半島経由で日本に仏教をはじめとしていろんな文化が伝わってくるわけですね。朝鮮半島を統一した新羅も仏教国で仏国寺なんていう世界遺産の遺産があったり。ただその新羅も10世紀の全般に滅亡するわけです。後釜に座ったのが高麗という国ですね。高麗ができたのが918年、滅亡が1392年。400年ぐらい続いていった国なんですけども、さっきの新羅にしても今度の高麗にしても、中国王朝との基本的な関係、これは中国の王朝がいわゆる親分、自分たちは子分、そういう関係なんです。難しい言葉で冊封と言いますけど。
中島:
滅亡するというのはどういうことですか?新たに皇帝みたいな人が作られるということですか?
青木:
そうです。支配者一族が一掃されて新しい支配者が登場すると。
中島:
国の名前も変わっちゃうと?
青木:
変わる。支配者は国王です。世界の支配者が皇帝で、皇帝はもう
中島:
中国にしかいないと。
青木:
はい。自分はその中国皇帝が支配している世界の一部分のリーダー。
中島:
国王ということですね。
青木:
逆に言うと中国皇帝の権威を認めることによって自分の国内統治を安定化させよう、要するに「俺の背後には中国皇帝がいらっしゃる」と。これは朝鮮の歴代王国の基本的なスタンスですね。国の安全保障のためにも中国にすがると言っちゃちょっと失礼になるけども。
中島:
それは中国はなにか旨味があったからそういうふうにするんですか?
青木:
一言で言うと旨味はないです。一言で言うとメンツ。
中島:
「俺はあそこの国も子分にしてるんだぞ」という、広さとかそういうことですか?
青木:
要するに自分のことをご主君様と言ってくれと。年に1回か2回は貢物を持ってご挨拶に来て
くれと。
中島:
不思議な国ですね。日本にもそういうことをやってたわけでしょ。
青木:
そうですね。日本は中国の皇帝を自分のご主君様とは言わないんです。ただ貿易はしたいんです。中国って対等の関係を認めないので、貿易したいんだったら土下座して品物を持ってこいというわけです。そしたら欲しいものをくれてやると。いわゆる土下座させて貢物を持ってこさせてお土産を渡すんです。それがめちゃくちゃすごいんです。だから経済的な合理性みたいなものはあんまりない。
中島:
おもしろいですよね。
青木:
そこが中国のある意味奥深さというか。
中島:
懐の深さですよね。
青木:
だからメンツが一番大事なんです。その中国の皇帝をご主君様として、朝鮮の国王というのはいわゆる臣下ですね、家臣ですね。高麗も新羅もそういう関係性だった。
ところが高麗の海岸を荒らし回る連中が14世紀あたりから出てくるわけです。これがいわゆる倭寇というやつで。
中島:
本当ですか。それは次の回でやりましょう。
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